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CRM対談

消費者の理性、感情、無意識に迫る、「機能する」マーケティングとは?

ルディー和子氏プロフィール
アメリカの化粧品会社エスティローダー社マーケティング・マネジャー、出版社タイム・インクのダイレクト・マーケティング本部長を経て、現在ウィトン・アクトン社代表。著書『マーケティングは消費者に勝てるか?』(ダイヤモンド社)、『データベース・マーケティングの実際』『ダイレクト・マーケティングの実際』(日経文庫)、訳書『ポストモダン・マーケティング』など多数。

最新脳科学がマーケティングを変える!

マーケティングが機能しないことがあるのはなぜでしょうか?

ルディー氏:言葉を中心としたマーケティングには限界があります。アメリカでは90年代から脳科学の研究が進み、fMRIなどで脳の反応を観察できるようになりました。たとえば「どの広告が好きか」という問いに被験者が答える調査の場合、それまでは回答の言葉を信じるしかありませんでした。しかし、fMRIを利用して、本当は好きではないのにウソをつく場合があることがわかったのです。人間は好きなものに接すると脳の報酬系が活性化して「快」の感情が生まれます。その報酬系が活性化しているのに「これが好き」と言わない人が意外に多いのです。

どうして素直に「好き」と答えないのでしょうか?

ルディー氏:たとえば、「これを好きといったらバカと思われるんじゃないか」と心配しているのかもしれません。理由はいろいろあるでしょう。意識的にウソをつく場合もあれば、無意識的に本当のことを言わないこともあり、そこに言葉を使った調査の限界があります。調査結果を分析する担当者が「こういう回答がくるといいな」と意識的あるいは無意識的に期待している場合、自分の都合のいいように解釈することもあります。

正確な結果を得るためにはどうしたらいいのでしょうか?

ルディー和子氏写真ルディー氏:いくつかの方法がありますが、最近、注目されているのは、観察を主体とする調査です。言葉を介した調査をする場合は、正確でない場合があるという欠点を知った上で、傾向や流れをつかむために利用することです。質問を工夫する方法もあります。たとえば、選挙前の調査で「どちらの候補者に投票しますか?」と聞くよりも「豊臣秀吉と織田信長のどちらが好きですか?」と聞いて、織田信長ならこちらの候補者に入れる可能性が高いというように、深層心理を探るような質問をする方法も最近使われるようになっています。

人間が意識している部分は5パーセントで、無意識の部分が95パーセントとも言われています。だから最近では、個人深層面接調査、それも、言葉よりイメージを使った調査が注目されています。たとえば、コカコーラ(ヨーロッパ)では、コカコーラのイメージを表現しているイラストや写真を集めてもらうといった深層心理を探る投影法を実施しました。そうした回答を集めて、コカコーラに消費者が抱いている真のイメージを見つけるわけです。

理性より感情が優位?

マーケティングは、感情の領域までカバーする必要があるわけですね。

ルディー氏:脳科学の研究により、論理的思考をつかさどる部位と感情をつかさどる部位が協力しないと意思決定ができないということも明らかになりました。事故で感情を司る部分あるいは論理的思考を司る部分、どちらかでも損傷したら、人間は何も決められません。感情に深く関わると考えられているのは、進化の順では古い脳にある扁桃核です。そして、論理的思考と関与するのは、新しい脳である大脳新皮質の前頭連合野。そして、古い脳にある感情に関する部分のほうが、ともすると、論理的思考に関わる部分より強い力を発揮する傾向が高いのです。人間は往々にして自分は理性的に考えて判断していると思い込んでいますが、「感情と理性のダンス」では、感情が優位に立っていることが多いのです。購買行動につながる消費者の意思を捉えるためには、感情に訴えなくてはいけないのです。

感情に訴えるリレーションシップマーケティング

消費者の感情に訴えるためにはどうしたらいいのでしょうか?

ルディー氏:コミュニケーションだけでなく、サービスも大切です。たとえば、アメリカのウォルマートでは、ネットで購買した商品を返品するとき、身近な店舗で返品できます。店頭のデータベースをチェックし、その場で返金されます。家電など返送が面倒な商品も、このシステムなら気軽に返品できますから、こういったサービス・システムは顧客にとって、他の企業にはない「良い経験」だと認識されます。

こうしたリレーションシップマーケティングを実施するためには、人材、テクノロジー、ノウハウ、システムが必要です。ウォルマートの例では、人材は店員やサポートオペレーター。ネットでの販売歴を店頭で即座に検索できるためのテクノロジーとシステム。ノウハウは、過去の経験から顧客はこうしてあげれば喜ぶという経験の蓄積。ここまでやらないと顧客と感情的に結び付くことはできません。

CRM活動は「プロアクティブ」に

CRMが顧客の感情に訴えるためにはどうすればいいのでしょうか?

ルディー和子氏写真ルディー氏:CRMは、どちらかというとコミュニケーション中心ですが、インタラクティブなコミュニケーションの頻度を増やすというだけでは顧客の感情は動かせません。関連性(Relevancy、レラバンシー)とタイミングを考える必要があります。顧客のデータを分析して、たとえば化粧品やサプリメントだったら、そろそろなくなりそうなタイミングで、メールや手紙を出します。保険会社や銀行なら、住所変更手続きが取られたとき。結婚した、子供ができた、子供が独立したなど、家族構成が変わったから住居も変わったケースが多いので、新しい保障や教育ローンが必要になるはずです。そうしたタイミングで新しい商品を提案するわけです。家電製品なら、データ分析でしばらく使ったら付属品が欲しくなるケースが多いのなら、そのタイミングでDMを送付します。過去のデータを分析して、似たような顧客のケースを参照にしてコミュニケーションしていくわけです。こういった企業のコミュニケーション活動は「プロアクティブ」だと形容することができます。プロは「〜に反応して」という意味で、顧客の状況変化や行動に反応して積極的に行動するという意味です。プロアクティブなコミュニケーションは、タイミングよく関連性高いメッセージ内容になるので、好意的に受け止められ、顧客と感情的に結び付く可能性が高くなります。

プロアクティブな手法を取るために必要なことは?

ルディー氏:きちんとしたデータ分析が第一に必要です。基本的に、日本ではCRM活動をすべき企業がCRMを実践してないケースが多いようです。銀行も通信サービス業、エステ、スポーツクラブもやっていません。一部のクレジットカードや通販業界がパーソナライズしたサービスを行っているぐらいです。デパートでもポイントカードは発行していますが、単に顧客の名前を呼ぶレベルにとどまっています。データ分析をしていないので、これまでの購買パターンを分析して関連性のあるものを売ろうとはしていません。BtoBも、中小企業など、営業マンが頻繁に訪れているだけのところは、もう少し科学的な分析が必要です。

「人間性」を感じさせる企業が、消費者に勝つ!

最終的に消費者の心をつかむ企業の条件は?

ルディー氏:企業と消費者は、最終的には人間と人間との関係です。ところが、大企業になればなるほど、人間の意思が感じられなくなります。通販でも、売上が1千億ぐらいまでなら顔が見えるのに、それ以上の規模になると見えなくなってしまいます。そして、創業者の意思も薄れて、顧客とリレーションシップが希薄になります。人間は人間としか感情を伴う深い関係をもてません。人間は他人と協力するときに脳の報酬系が活性化して「快」の感情を感じることがわかっています。でも、コンピュータ相手では、脳の報酬系は人間相手ほどには活性化させられないこともわかっています。大企業になっても、人間性を感じさせる企業であることが成功の鍵です。

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