CRM顧客管理ソフトSynergy! >> CRM対談 >> 「顧客見える化」でCRMの成功が見えてくる
CRM協議会事務局長他10のIT関連のコンソーシアムを創立。通産省等の財団委員を歴任し、現在はeCRM専門家、認知科学者としてコンサルに従事。米国Cognitive-Science学会員。デジタルハリウッド大学教授。著書に『CRM入門』( 監訳/東洋経済)、『第六感の正体の謎』(河出書房)他多数。2007年5月『顧客見える化』(同友館 7月刊行予定)。
短期的な営業実績だけで効果を測ると、CRMは失敗する
――CRMを導入したものの、その効果を実感できない企業が多いようですが、その理由をどうお考えになりますか。
匠氏:CRMを、単に顧客満足度を上げるため、あるいは営業実績を上げるための単純な仕組みとしてとらえる企業が多いからではないでしょうか。そもそもCRMとは、中長期的な経営戦略の一つですから、導入して1、2ヶ月で早々に結果が出るというものではありません。半年、1年かかって効果が現れ始めるのが当たり前です。さらに、顧客満足度は目に見えないため効果を計りにくく、短期的な営業実績のみが重視されがちです。日本では長らく、営業主導のビジネススタイルが維持されてきたことも、その傾向に拍車をかけます。短期的な成績を上げるために、営業サイドが顧客にとって不要な商品まで売りつけていては、顧客満足度は下がり、当然、再購入は望めず、CRMの効果は望むべくもありません。
逆に、本格的にCRMに取り組む企業の場合は、顧客のことを考え、自社商品以外の競合他社のサービス紹介にも積極的に取り組みます。購買代理人と呼ばれるこの方法は、直接の収益には結びつきにくいものの、それを上回る「信用」を得ることができます。ひいては、将来的にリピート購買に結びついたり、他の顧客を紹介してくれたりという、プラスの効果を得やすいのです。
経営者はどうしても、早急に結果を求めてしまいがち。短期的な売り上げや収益に目が向いてしまい、「導入効果がわからないのがCRM」と結論づけられ、本気で取り組まないケースが日本では多かったといえるでしょうね。
「モノ(商品)」はいまや、サービスの一部でしかない
――商品ではなくサービスを売るという発想が、CRMには必要なのでしょうか。
匠氏:「モノ」ではなく「サービス」で満足してもらう時代になってきたからでしょう。商品の販売は、サービスの一部分に過ぎなくなってきたのです。
最近あるIT企業が、サービスをサイエンスとして位置づけ、莫大な投資をして徹底的にそのあり方を科学として問い直し始めました。パソコンやサーバの販売収益が全体の収益構成の三割を切り、情報やコンサルタント、サポートのような形のない部分が、販売利益の大半を占めるようになってきたからです。
ホスピタリティーや癒し、あるいはロハスのような言葉が代表するように、人々の幸福感の基準が、「(家やモノ、金を)持つこと」から「心のありよう」にシフトしてきていることも、時代背景として見逃せません。
例えば、「旅行の思い出を作る」というニーズのためにカメラを買う場合、高スペックのカメラは不要。場合によってはカメラすらなくてもいい。タイミング良く写真撮影してくれるエージェントがいれば事足ります。求めているのはあくまで思い出であって、モノを持つことではないのですから。
――顧客ニーズに沿ったサービスを提供することが大切なんですね。
匠氏:その通り。例えば歯科医。虫歯を治療すれば、もちろん職務は果たしたことになります。単なる修理です。しかし、患者という顧客が本当に望んでいるのは、今後も虫歯になりにくい健康な歯、ですよね。私の通う歯科医は、そんな顧客ニーズをしっかりつかんでいました。初診は、食生活を中心におよそ1時間のカウンセリングからスタート。そこから原因を探り出し、治療をし、最終的には歯の磨き方など健康な歯の維持管理まで丁寧に教えてくれました。まさにこれがサービスです。結局私は半年の治療を終えた後、さらに3ヶ月に1度通院し、いろいろ歯の改善ができたのです。つまりこの歯科医は、最初の日にじっくり1時間顧客に時間を割いた(コストをかけた)ことで、患者つまり私の信頼を勝ち取り、一時的な歯の治療による収益だけではなく、継続的な通院による収益も得ることになったのです。
――CRMのコンセプトに、顧客ロイヤルティや顧客生涯価値(ライフタイムバリュー)の向上が挙げられますが、どういうことでしょうか。
匠氏:まず、顧客ロイヤルティですが、どれだけの客が次も商品を購入してくれるかという、リピーターの率、つまり再購買率、顧客維持率が指標となっています。CRMは顧客満足度と収益率の両方を上げる仕組みですが、顧客ロイヤルティは、その成否を占う指標となるわけです。
一方、顧客と接する平均時間価値を計り、顧客の生涯を通じての全体収益がどれだけ見込めるかを数字で表したものが、顧客生涯価値(ライフタイムバリュー)。その数値は中長期的な視点で見ると、企業と顧客との関わりにおいて、非常に重要なものとなります。
乗用車を例にとると、買い替えなどを含め、企業が顧客と関わる期間は30年程度でしょうか。そこで発生する収益をおよそ500万円と計算できれば、初期の販促の段階で、その顧客に対して10万円程度の無償サービスをつけることも、コストとして考慮できますよね。顧客は満足し、買い替えの際もその企業を選ぶ確率が高まります。そうやって顧客との強い絆を作っていくためには、顧客生涯価値の把握が重要となるのです。
「顧客見える化」で、顧客と企業をダイレクトにつなぐ
――部門間の対立が原因で、せっかく導入したCRMが思うように機能しないという声を耳にしますが。
匠氏:そういったケースが非常に多いですね。このインタビューの冒頭でも、営業主導のCRMでは効果は実感できないと話しましたが、大抵そういう企業ではマーケティング部門と営業部門とのコミュニケーションがうまくいっていないようです。
逆に上手にCRMを活用している企業では、マーケティング部門がリーダーシップを発揮し戦略方針を貫く一方、調整役としても活躍しています。ここで役に立つのが、「社内顧客」という考え方。マーケティングは営業を社内顧客とみなし、社内顧客満足度を考慮した動き方をすればいいのです。例えば、営業マンにとってメリットが見えやすいツールを最初に使い、CRMが役にたつという実感を持たせるのも大いに結構。日本でコールセンターの成功率が非常に高かったのは、コールセンターの情報を営業に渡して、営業しやすいように助けていたからなんですよ。
――ずばり、CRM成功のためのキーワードを教えてください。
匠氏:「顧客見える化」ですね。本来目に見えない顧客満足度やニーズを、見えるようにする仕組みのことです。
「見える化」は、顧客の動きがわかる情報を、Web、イントラネット、データなどで社内に公開することから始まります。社員自身が顧客の満足度を上げるためにどう動くか、現場で考えるための材料を、誰もが見える状態で提示すればいいのです。そうすれば、クレームが少なくなるばかりか、クレームもありがたい顧客情報として蓄積され、各部門で共有できます。
いち早く「顧客見える化」を導入し、顧客ニーズを商品開発に取り込むとともに、社員のモチベーションアップにも成功した企業があります。革製品のブランドを持つその会社では、工場見学のツアーが定期的に開催され、顧客が工場を訪れます。まさに「顧客見える化」。スタッフは直接顧客に質問もし、そこでもらったアイデアを早速鞄の製作に活かします。さらにその鞄を買ってくれた顧客から、また御礼のメッセージが届く。そのメッセージを見れば、反応もわかる。そうするとまた、やる気が出てくる。社員は生き生きと働く。そういうサイクルをうまく作っているのです。
販売部門では、顧客の反応は実感として分かります。でもクレームを受けて改善するのは顧客との接点がない開発部門の担当者。だから革製品の会社のように、開発部門がちゃんと顧客の反応を見られるようなバックヤードを整備してあげることが大切なのです。全社のマーケティング戦略の一貫性を作り、社内顧客の満足度を上げる、「顧客見える化」の仕組みづくりは、今後、マーケティング部門が中心となって考えなければならない重要な課題となるでしょうね。








